大阪地方裁判所 昭和38年(レ)270号・昭38年(レ)265号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔争点〕一審原告Xと一審被告Yとの間で成立したXのYに対する借受金債務の代物弁済としてYがX所有名義の土地建物の所有権を昭和三三年八月九日に取得したことを確認する旨(和解条項第一項)、その他の条項を内容とする即決和解に対し、Xは請求異議の訴を提起した。
〔判決理由〕次に一審原告健治は、本件即決和解においては、別紙目録記載の土地建物の引渡請求権の存否のみが争いの対象となつていたにすぎず、その前提である昭和三三年七、八月頃(或いは昭和三一年九月一七日)に一審原告健治と一審被告との間で成立した右物件に関する代物弁済の予約及びこれに基づく予約完結権行使の有効性にまで本件和解の効力は及ばないと解すべきところ、右代物弁済の予約は暴利行為にして公序良俗に反する無効のものであり、仮にそうでないとしても、予約完結権の行使は権利の乱用にあたり無効といわねばならないものであつたにも拘らず、一審原告健治はこれを有効なりと誤信して本件和解に応じたものであつて、右は要素の錯誤にあたるから、本件和解は無効である旨主張するので判断するに、<証拠>を総合すれば、一審原告健治は、一審被告から、昭和三一年九月一七日金六〇万円を弁済期を同年一二月一六日と定め、ついで同年一二月二二日、金九〇万円を、弁済期を昭和三二年二月一五日と定め、利息をいずれも一ケ月五分の約定で借受けたが、右各弁済期に元金の支払いができなかつたため右両債務につき約定利息を支払つて期限の猶予を得てゆくうち(但し昭和三二年九月二五日から昭和三三年四月一三日迄の間は利息金の支払いもしていない。)昭和三三年六月一〇日、一審被告に対し同年五月一六日から同年六月一五日までの利息金支払いのため振出した約束手形二通(いずれも振出人一審原告登貴美、金額各四万円、支払地振出地とも大阪市、支払場所昭和産業相互銀行都島支店、支払期日は一通が同年七月七日、他の一通が同月一七日)につき、同年七月一四日内金一万円を支払つたに留まり、残額八万円及びその後の利息金の支払いをしなくなつたこと、一審被告は昭和三一年九月一七日一審原告健治に対し金六〇万円を貸付けるに際し、同人との合意に基き一審原告一二を右貸金について連帯債務者とすると共に右債務を担保するため、一審原告健治との間に、同人所有にかかる別紙第一目録記載の土地並びに、同一二所有にかかる別紙第二目録記載の建物(以下単に第二建物という)を目的として、抵当権設定契約、停止条件附賃借権設定契約及び売買予約を各締結したうえ同月一八日これらを原因として夫々抵当権設定登記、停止条件附賃借権設定請求権保全の仮登記、所有権移転請求権保全の仮登記をし、次いで同年一二月二二日金九〇万円を貸与するに際しても本件土地及び第二建物に対し、同年九月一七日になしたと全く同様の各契約及び各登記をしたこと、ところが昭和三三年七月に至り、一審原告健治が前示のとおり利息金の支払いを再び滞るようになつたばかりか、前示両債務の担保に供していた本件第二建物を一審被告に無断で取毀し始めたので、驚ろいた一審被告において、もはや弁済期の猶予を繰り返すことができないと考え、一審原告健治に対し、前示両債務の代物弁済として本件土地の所有権を移転するよう申入れるとともに、同月三一日付同年八月一日到達の書面をもつて七日以内に元金及び延滞利息を支払うべく、右催告期限に右金員の支払いをしない場合は本件土地につき売買予約を完結する旨の意思表示をしたが、一審原告健治は右催告期限に右金員の支払いをしなかつたこと、その間一審被告は同月七日一審原告健治に対し、さきに締結した本件土地の売買予約を代物弁済予約に改めたい旨申入れその同意を得たので、同日更に権利関係を明瞭にし後日の紛争を防止する意味で和解をしたい旨申入れ、自ら作成した和解条項(本件和解条項と同旨のもの)を示したところ、一審原告健治は、右和解条項を確認してこれに同意を与えると共に、一審被告の指示に従い、和解期日に自ら裁判所に出頭することができない場合のために、予め裁判上の和解についての代理権限を田中貞蔵弁護士に委任する旨の委任状を作成しこれを一審被告に交付したこと、次いで同年九月一六日一審被告、一審原告健治、田中貞蔵弁護士が大阪簡易裁判所に出頭した上、本件即決和解が成立し別紙和解条項が記載された本件和解調書が作成されたことがそれぞれ認められ、右認定の一部と抵触する前掲原告健治本人尋問の結果の一部は措信できず、他に右認定を覆えすに足る的確な証拠がない。
以上のような本件即決和解に至るまでの経緯並びに本件和解調書の記載――特にその第一項の記載――に徴すると本件和解においては、和解成立当時一審被告が代物弁済予約の完結により本件土地の所有権を有するか否かということ自体が争点の一つとなり、これについて一審原告健治が一審被告の所有権を承認したと解するのが相当であるところ、一審原告健治の前示代物弁済ないし本件和解が無効であるという主張は、ひつきよう本件和解成立時において一審被告に本件土地の所有権が移転していなかつたことを主張するに帰するというべく、かかる主張によつて本件和解の効力を争うことは民法六九六条により許されないものと解するのが相当である(最判昭和三六年五月二六日・民集一五巻五号一三三六頁参照)から、同原告において右無効の前提として主張しているその余の事実の存否について判断するまでもなく、同被告の本件和解無効の主張は失当である。(下出義明 上田耕生 田中宏)
(註・和解条項 一、相手方松田健治及び相手方松田一二が連帯債務者として申立人に対し負担人に対し負担していた借金債務金六〇万円及び借金債務金九〇万円、並に、右借金各元本債務に対する昭三三年六月一五日迄の合計利息金七万円、並に、同年六月一六日より同年八月八日に至る迄の年一割八分の割合による利息の債務の代物弁済として、相手方松田健治所有名義の後記第一目録記載の土地及び相手方松田一二所有名義の後記第二目録記載の建物の各所有権を昭和三三年八月九日に申立人が取得したことを相手方松田健治、同一二の親権者松田健治、同親権者松田登貴美及び申立人双方確認する。)